愛される少女(あいされるしょうじょ)

彼方にある少女の心(かなたにあるしょうじょのこころ):永遠に咲く花、長い時を経ても枯れずに香りを放ち続ける。
…淡くて優雅なピンク色の花、未だに瑞々しい。
本の記載によると今は絶滅品種になっている。

少女が呼んだ物語に何度もあったように、
救われた少女とまだ純白であった騎士が、
互いの花と祝福を交換した。

少女の心は通常、花のようにすぐ散っていく。
この花だけが、未だ瑞々しい状態を保っている。
これは彼女の心があの時に止まったから。
少女が初めて彼女の騎士に出会った頃に。

少女の揺らぐ思い(しょうじょのゆらぐおもい):誰かの思いを乗せた羽根飾り、まるで風と共に遠くへ去った渡り鳥のようだ。
…精巧な羽根の飾り。
時を経て、羽根に結構な埃が溜まっていた。

騎士に出会った日、少女の運命は終わった。
青春、恋愛、これらのために今を生きることはできない。
届かぬ思いは、巣を探し彷徨う鳥のように永遠に漂流する。

この思いは、
あの騎士道に溺れている騎士の心に届くだろう。
滅亡した古国にいる騎士に、
彼女が夢見た景色は届くだろう。

少女の短い華年(しょうじょのみじかいかねん):時計の針に終点はないが、少女の愛される歳月はそうではない。
…精密な器具。持ち主の気持ちを考えず、
物事の変還を永遠に示している。

少女の時間は限られていた。
だが彼女の待つ時間に限りはなかった。
懐中時計の秒針がぐるぐると回りに回った。
持ち主の思慕と思い出も同じであった。

時が経っても、彼女はまだ覚えていた。
数年前に出会った純白の騎士のことを。

少女の暫く息抜き(しょうじょのしばらくいきぬき):酒ではなく紅茶の容器。中は苦い味ではなく甘い味である。
…少女がずっと気に入っていたコップ。
上品な紅茶に満ちていた。

悠々とお菓子やお茶を楽しんでいる。
世の中から離れて暮らせるのは少女の特権である。

「俺の褒章はこの花で。それでいい」
騎士と出会った日に、騎士はこう言った。
「でも私の心はもう」
それを口にしなかったのは、彼女の特権であり、
少女の矜持でもあった。

少女の儚き顔(しょうじょのはかなきかお):丁寧に手入れされた帽子、目じりの皺をも完璧に隠せる。
…求愛者と花に囲まれても、
少女は一度も礼帽を外さなかった。
名前と顔を覚える必要するない人たちの顔は見もしなかった。

長年、彼女は眠りにつく前に、
礼帽についた埃を払っていた。
だが顔に溜まっていく埃は払えない。

求愛者と、贈られる花束の数は時間が経つにつれて減っていったが、
彼女の心は過去のある日に留まった。