沈倫の心(ちんりんのこころ)

金メッキのコサージュ(きんめっきのこさーじゅ):仄暗い色をしたクロークピン。金色のメッキは既に海風に削り取られてしまった。
…海風で色が褪せたコサージュ。
千の波を翔ける男でも、
大事にする飾り物と思い出がある。

副船長と船師を乗せた艟艨が再び出航した。
船師のばかげた望みのため、思い出に眠る故郷のために、
副船長は下手な鼻歌を口ずさんで鯨と波に応える。

「一族の名を捨てた賊人が命取りにきた魔女と流浪(できなかった)」
「一族の名を得られなかった弟はやがて族長となる(だろうか)」

「口に出せない歌詞…真実に背き、幻想を選んだのか」
「全てを失い全てを諦め、全てを受け入れ海に沈む」
「悪くない結末かもしれないな、ハハハハハハ!」

追憶の風(ついおくのかぜ):咽び泣く海風と、鮮やかな赤い波が連れてきた羽。長い年月がその形状と色を変えた。
…不吉な赤い羽根。死の兆候かもしれない。
ある日、海獣の残骸と共に海岸に打ち上げられた。

不真面目な航海士は璃月の出身ではなく、灰色の国である貴族の出身だった。
かつては貴族だったと言われていたが、あることで一族に恥をかかせ、追放された。
しかしそれも無稽な伝説である。彼が港に着いたとき、手にあったのは一本の細い剣だけだった。
それ以外に、青宝石色の小さな羽が一つ、古びたマントに飾ってあった。

その後、彼は船師と共に海を渡り、嵐、海獣、そして波と戦った。
かつて青宝石の色をした羽は、真っ赤な血で染められ、大海の塩気が染み込んでいた。

そして最期のとき、
彼は強い酒に覆われていた過去をはっきりと思い出した。
波に流れる砂の下に現れた宝のように…

堅い銅のコンパス(かたいどうのこんぱす):旧式の銅製のコンパス。針は終始、港の存在しない遥か彼方を示している。
…海の男が使う銅色の羅針盤。
波に揺られる一生で、
持ち主の心想を指す。

じだらくな船師はかつてこの羅針盤で巨船を引き、
危険な海域を超克し、巨大な渦潮を征服した。
奔放な笑い声から滲み出た恨みと酒、
死を求める結末で、落魄れた者を導いたこともあった…

「小賊はいずれ絞首台行きだ…お前らの歌はこう歌うよな?」
「居場所さえあれば、魚の餌になっても構わない――」
「船隊に入った時にこの船と契約を結んだじゃないか?」
「その記憶も酒に洗われたのか?ハハハハハ!」
「忘れてなきゃいい。さあ、契約を果たす時だ。」

「ああ、それでいい。もうどうだっていいんだ…」

浮沈の杯(ふちんのはい):何気なくすくい上げた色あせた酒杯、仄暗い外観は波の底にいた日々について囁いでいる。
…少し色落ちした上質な盃、
海淵の砂で磨かれたもの。

上質な盃が航海士の手から滑り落ち、海にほんの少しの水しぶきを立てた。
大量の魚の群れで、光が薄れる海淵で、一体何を経験したのだろう?
静寂で暗い路地で、花壇の柵前で、一体何を経験したのだろう?
金の盃はゆっくりと、海に潜む怪物の夢に、船の上の航海士の夢に沈んでいった…

「この罪はあなたから被せられたもの、この屈辱はいつか必ず返させてもらう」
月明かりが青宝石の眼とまばゆいばかりの傷跡を照らす。
彼の記憶の中にある彼女の顔は、明るくて美しかった。
しかし彼は当時のことを忘れてしまい、悔しさだけが残った。

「ところで、過去を忘れるのはこれで何回目だろう…」

「過去のことを言ったってどうにもならないだろ!」
「すべての死は無駄であり、救いはないのだから。」

酒に漬けた帽子(さけにつけたぼうし):旧式の船長帽、今でも抜けきらない酒の匂いが纏わり付き、酒の痕跡があちこちに染みついている。
…強い酒の匂いがする三角帽子、
その形はかつての持ち主を象徴する。

酒に溺れる副船長は終日酔っぱらったままにいる。
その身に酒臭が染み込み、口からは千切れた記憶が囁かれていた。
だが船師はちっとも気にせず、ただ微笑む。依然として彼に重任を任せた。

「だって俺らは皆、なんもねぇ奴らだからな。ハハハハハ!」

「酒がしみついた帽子は嵐に巻き上げられ、千波万波に飲み込まれ」
「やがて故郷を失う者は、無欲の争いを続け」
「追憶の海で無くなった物を、彼らは深邃の海で取り戻そうとする」

「風もよし、海もよし。とうとう見つけた。」
「夢の中でさえ俺らを食いつく獣…」
「今こそ敵討ちの時、帆を上げろ!」